作家として成功するための10の秘訣
P・D・ジェイムズはイギリスを代表する女流推理作家の一人です。
1920年にオックスフォードに生まれ、小説を出版したのは40歳を過ぎてからでした。
以来数々の本を出版し、日本でも「アダム・ダルグリッシュ警視シリーズ」などが翻訳され多くのファンがいます。
2014年11月、94歳で死去しています。
彼女が生前、「小説を書く人に伝えておきたい10か条」を述べています。
小説に限らず、文章を書く人には大いに役立つアドバイスが含まれていますので、ここに紹介します。
1. 書くために生まれてきた人であること
言葉を効果的に美しく使うことを他人に教えることはできません。
周りの人は、書く能力のある人に効果的に書く手伝いをしたり、小説を書くコツを教えたりすることはできます。
しかし書く能力のない人や言葉に注意深くない人を作家に育てることはできないのです。
誰も私を音楽家に育てることはできませんでした。
なんとかして私にピアノの弾き方を教えることが出来た人はいるでしょうが、私を音楽家にすることはできなかったでしょう。
同じく、作家を育てることはできない、ということを私は強く感じています。
2. 自分の知っていることを書く
必ず自分が知っていることを書くべきです。
自分の中で積み上げてきた小さなことがいろいろあるはずです。
作家にとっては何も無駄になるものはないのです。
自分自身の外側に立って見るような視点が必要です。
つらい経験、幸せな経験、何でもあなたの中に蓄積されたものがあり、遅かれ早かれそれが使われるのです。
自分で書きたいと感じていることを書くべきだと思います。
そうすれば書いた本はあなた独自のものとなり、よいものが出来るからです。
書く能力のある人、言葉の感覚を持ち言葉をどのように使うべきかを知っている人は、自分の本を出してくれる出版社を見つけるはずです。
結局、出版社は新しい書き手を見つけなければいけないのです。
私たちはみんな年老いて、死んでしまうわけですから、後に続く人が必要になるのです。
3. 自分自身の日課を決める
私たち作家はそれぞれ違います。
どれほど違うかを考えると、非常に興味深いものです。
自分の部屋を必要とする作家もいれば、コンピューターで全ての作業をしてしまう人もいます。
私は手書きで原稿を書いていますが、快適なイスとテーブル、いくつかのボールペンと罫線の引かれた紙があれば、どこでも仕事ができます。
翌日の10時になると私のアシスタントがやってきます。
彼女に書き取ってもらうたくさんの原稿が出来上がっているので、それをコンピューターで打ち、印刷してもらい、私がそれを最初の草稿として手を加えてゆくのです。
ある意味、私は執筆過程の途中で推敲することになります。
早起きは大事ですよ。
ロンドンの街が一日を始め、電話がなり、メールがたくさん届いてしまう前に、起きて仕事を始めます。
朝の静かな時間が、私にとっては最高の時間です。
4. 出版業界がつねに変化していることを意識する
出版業界が今までどれほど変わってきたことか、驚くほどです!
最新の技術を使って出版することが今はとても楽になりました。
また出版社と作家との間にエージェントを置くことは、現代ではとても有効だと思います。
全てのものが変化し、とても驚かされます。
今は自費出版まで出来るようになったのですから。
かつて私は、自費出版は本を出すための最大の譲歩であると思っていました。
しかし実際には、出版社は自費出版されたものに注目しており、結果的にはビジネスとして成功している作家もいるのです。
5. 読み、そして書く。時間を無駄にしない
上手く書くためには、幅広く物を読むことをおすすめします。
作家として成功している人たちをよく調べて、そのコツを得ることです。
しかし単にまねをするのはよくありません。
そして自分で書いてみるのです!
私たちは、書くことによって書くことを学んで行きます。
単に空白のページを眺めて将来の素晴らしい成功を思い浮かべているだけでは駄目なのです。
何を書いて練習するかはそれほど重要ではないと思います。
短編小説でもいいし、長編小説の書き出しでもいいし、または地元の雑誌の記事でもいいでしょう。
とにかく書き、工夫し、つねに改良してゆくことです。
考えたり語ったりするのではなく、文字に起こしてゆくことが必要です。
6. 自分ひとりの時間を楽しむ
作家と言うのは一人でキャリアを築いてゆくものです。
しかしこれを寂しいと感じる人は作家とはいえないのではないかと思います。
もしあなたが作家であれば、自分が創造した登場人物との静かな時間を過ごすことがいかに貴重であるかに気づくはずです。
ほとんどの作家にとって、この孤独の時間が必要だと思います。
作家は、自分の時間のすべてをつねに華々しい生活の中で過ごすことを求めないでしょう。
私は作家として寂しいと感じたことはありません。
しかし寂しいと感じる人がいることも事実なのです。
7. 最適な設定を考える
小説には必ず弾け出てくるものがあります。
私の場合、それは設定です。
私は「場所の精神」のようなものへの強い反応を感じます。
イースト・アングリアの長い静かなビーチで小説の構想を考えていたときのことでした。
私は目をつむり、波が浜の小石に寄せてくるのを聴いていました。
ふと目を開け、北海のほうへ目を向けました。
そこには大きくて人気(ひとけ)のない原子力発電所の白い影が見えたのです。
この瞬間、私は小説を書けると感じました。
こうして書き始めたのが『策謀と欲望』です。
8. どこに行くときでもノートを持ってゆく
どこに行くときでもノートを忘れずに持って行きましょう。
あなたが創造する登場人物を描写するのに最適な顔を見ることがあるかもしれないし、ある場所を見てそれを表現する最適な言葉を思いつくかもしれないのです。
これは作家にとっては懸命な方法だと思います。
9. 書き終えるまではその本の話をしない
ひとつの作品を書き終わるまで、私はその本の話をせず、誰にも見せません。
出版社やエージェントにも見せません。
そのため、彼らが電話してくるまで気まずい時間があるのですが。
出来上がった原稿を送るときには自分の作品に自信を持っていますが、それでも「金曜日に送ったのだから、土曜の夜までには電話があって「あの原稿は素晴らしいですね!」と言ってくれるはずだわ」と考えてしまうときがあります。
人には好みがあるということ、そしてある本をほかの本よりも好む人がいるということを、いつも意識するようにしています。
10. どこでやめるかを意識する
今までたくさんの本を書くことが出来たのはラッキーでした。
それは楽しい経験でした。
歳をとるにつれて、これはとても難しくなります。
インスピレーションが訪れるのに時間がかかるのですが、作家である以上書き続けなければいけないのです。
現在私が執筆中の本は推理小説ですが、また別にもう1冊書く必要があるように思えます。
筆を置くタイミングを逃さない、と言うのはとても重要なことです。
作家によっては、特に推理小説の作家は、出版すべきではなかった本を出版してしまうことがあるのです。
しかし私の出版社が私にそれをやらせないと思いますし、私の子供たちもそれを臨んでいないと思います。
自分の本が出版に値するかどうか、自分の判断が正しいことをことを私は望んでいます。
私は生きている間は書き続けると思います。
書くことをやめるときは訪れますが、それは自分が書けなくなるときでしょう。