けがでキャリアを断念した元ヴァイオリニスト 現在はアンティーク楽器のディーラーとして活躍
ヴァイオリン・ディーラーのローマン・ゴロノク氏は自分のことを「仲人」と表現する。
彼は世の中のわずか1%の人と数百万ドルの価値のあるアンティーク弦楽器を結びつけることに特化したユニークな投資会社を経営している人物。
これまでに彼が仲介した最も高価なヴァイオリンは、18世紀に作られたグァルネリ・デル・ゲスのもので、1500万ポンドで売却された。今日では2000万ポンドの価値があると見積もられている。
しかし、ゴロノク氏が経営するベンチャーの最も興味深いところは彼が仲介している楽器の価値ではない。
ロシアで生まれたこの実業家は元プロのヴァイオリニストで、20代前半でバイク事故に遭い、演奏ができなくなってしまった。
このことが彼の人生を変え今の仕事に活路を見出すことになるわけだが、今でもなお立派なヴァイオリンを弾くことを「私が知っている中で最も深い瞑想の形」と表現している。
音楽は彼の人生の情熱であるが、彼の使命は、単に最高入札者にとの取引を仲介することだけではない。
富裕層の人たちと著名なクラシック音楽家との関係を築く手助けをすることに大きな意味を見出しているのである。
彼は「現代のメディチ家」、つまり名匠のヴァイオリンを購入して有名な音楽家に貸し出してくれるスポンサーを見つけ、それを活かすことを望んでいる。
イタリアの銀行家であるメディチ家は、ダ・ヴィンチからガリレオにいたる芸術家や科学者のスポンサーとしても有名で、オペラの発展につくした活動にも資金を提供していた。
ゴロノク氏は新著『楽器のポートフォリオ』の中で次のように書いている:
稀少で限りあるこれらの弦楽器は、ダ・ヴィンチやレンブラントの絵画のように、私たちが何者であり、どこから来たのかを教えてくれる貴重なものです。
これらの楽器はあらゆる意味で芸術品であり、それらがなければ私たちが知っているようなクラシック音楽は存在しなかったでしょう。
彼はこれらの楽器を「静かに、親族の手に渡す」ことを専門としていると語る。
「飛行機に飛び乗ってすぐに出国しなければならない場合、ヴァイオリンは手荷物の中にほとんど収まるものです」。
現在42歳の彼は、イギリスのサリー州を拠点とするビジネスマンであり、ふだんは世界中を旅しながら理想的なパトロンの仲介を求め、また時間を見つけては希少な楽器を見つけ出し、その出所を確認することに時間を費やしている。
現在、1715年製のストラディヴァリウスを扱っているこのゴロノク氏は、カーボンデーティング(放射性炭素年代測定法)などのおかげで偽物を見分けるのはそれほど難しくないと言う。
ストラディヴァリウスは、間違いなく世界で最も有名なアンティーク・ヴァイオリンである。
アントニオ・ストラディヴァリが彼の工房で17世紀から18世紀初頭に作ったヴァイオリンは900本ほどしかなかった。
そのうち3分の1以上が時を経て失われ、さらに3分の1以上が世界中の美術館に所蔵されているため、個人のコレクションとして購入できるのは300本ほどしか残っていない。
では、ゴロノク氏の顧客である富裕層の人たちは、なぜ他の資産ではなくこれらの希少なヴァイオリンに投資することを選んだのだろうか。
「それは、供給量の希少性に加えて、確かな職人技術と音響性能が、これらのアンティーク・ヴァイオリンをコレクター、キュレーター、投資家の間で非常に切望されるものにしているからです」
「高級で希少な弦楽器の価値は、これまで取引されながら上昇してきたと同時に、さらに重要なことですが、決して下落しないものでもあるのです」と同氏は説明します。
ゴロノク氏はヴァイオリンという楽器を投資として語る一方で、いわゆるメディチ流のパトロンになることで社会的責任を果たすという側面にもっと情熱を燃やしている。
「これらの名品を後世に残していかなければならない」というのが彼のいう社会的責任なのだ。
ゴロノク氏の最大の喜びは販売の仲介ではなく、名品を発見し、その名品とマッチしたヴァイオリニストが協奏曲を演奏するのを聴くことだ、と言えるだろう。
ゴロノク氏のウェブサイト(英語):
ROMAN GORONOK | Fine and rare stringed instruments